『都護府の夜』

「遅くまでご精が出ますわね」
「? ……ああ、リリアか。どうした?」
「どうしたって、それはわたくしの台詞ですわ。……何をなさってますの? こんな遅くまで」
「大したことじゃないさ。それよりそなたこそどうした? 寝てなくて良いのか?」
「そうなんですけど、最近ずうっと寝てばかりでしたから……」
「……そうだな。どこかの誰かさんのおかげでね」
「それで、殿は一体何を……?」
「ん? ああ、そうだった。あまりにも下らないものだったんでつい忘れていたよ」
「まあ……」
「これだよ」



「……何ですの? これ……」
「『世界』と、いうものらしい」
「『せかい』?」
「これで、管理人は執筆しているらしいよ。我々と、我々に続く数多の被害者達の世界をね」
「まあ、それでは?」
「そう。私もそなたも、全てこの中にあるということさ。管理人は『筆箱』と読んでいるみたいだね」
「『ふでばこ』……」
「本当はもっと色んなことに使えるらしいがね。管理人の能力では筆箱として使うのが関の山だということを前に聞いたことがある」
「……お粗末ですわね」
「全くだね。我々の命運がその程度の人物に握られているのかと思うと、些かぞっとするね」
「殿。いくら本当のこととはいえ、ばか正直に仰せになりますのは芸のないお振舞いではないかと存じますが」
「……判った。気をつけよう」
「……ところで、これは?」



「ああ、それか。……何だと思う?」
「さあ……何かしら」
「それは『足』らしいよ」
「『あし』? 足って、この足ですか?」
「はは、そうじゃないよ。こっちで言うなら、そうだね……馬か馬車ってところかな」
「これが馬!」
「そうなんだ、これはちょっと驚いたよ、私もね。どう見たって馬なんかじゃないんだが。でも管理人は、これに馬のように跨がっては目的地へ移動しているようなんだ」
「そ、そういえば……真ん中のこれは鞍のように見えますわ」
「両側には車輪がついているしね。おそらくこれが転がっていくんだろう。しかしどうやって動かすのかは見当がつかないな」
「これを馬のように……。不気味ですわ」
「そうだね。我々の世界でそんなことをしていたら完全にキ●ガイか変人だね。……さて、こんな下らないもののためにずいぶんと夜更かしをしてしまったな。もう休むとしようか」
「は、はい……」
戻る
|