皇天順ならず(高汝蓮)第34話

テゴやスンシャンほか数人が馬の轡を執り引く。
タイシが馬に乗る。
二人の子らも箱から出された。
テゴが五人となった子らを馬に乗せながら、タイシに尋ねる。
「あれ? リンヤ、夫人は?」
「棄てた」
「は? ……もったいない」
オリラが語る。
「リンヤ?」
「うん?」
「夫人といえば……漢語をしゃべっていましたね」
「うむ」
「それに……」
「プスワン部か……」
「はい」
「……」
「リンヤ!?」
テゴも声をかけた。
タイシが告げる。
「……漠北の諸部の幾つかは、すでにジュルチェンと通じているようだ」
「そんな!?」
スンシャンがテゴを顧みる。
「……どうする?」
「路を変えますか?」
テゴが問うた。
タイシが答える
「いや、卿が劃【かく】(計画)したとおりでいい」
「ほんとうにいいのですか?」
「信じよう」
「……わかりました。いちばん度(距離)の短く、いちばん兵の少ない路を撰んでいます。任せてください」
オリラが聞く。
「その兵らはどうなんだ?」
「キタン人が多い。あるいはキタン人将帥の麾下にいた者だろう?」
「まあ、そうだな」
「そのほとんどは天祚を厭いアクタに降った。しかし、心から従っているわけでない。必ずリンヤの還りを援【たすけ】ると報じている。また、リンヤの帰還に随いたいと告げる者もいた」
「ほんとうかあ?」
スンシャンが訝【いぶか】しげな顔をする。
「キタン人でない者や帰りたくない者は銭貨で購った」
テゴが誇らしげにしている。
「止まれ!」
タイシらの前に兵十ほど。
「テゴ、これも預め定めていたとおりかあ?」
スンシャンがテゴにつぶやいた。
「いや、こんなやつら知らない」
将らしきものが謂う。
「我らは営の周りを巡邏している。爾らは誰だ? その子らはどうした? どこへ往く?」
テゴが馬上から金牌を示す。
将が火炬を寄せ、それを見る。
「それは!? 郎君の……」
オリラがささやく。
「どうやら、やばそうですね」
「そのようだ」
タイシらは拝刀に手をやる。
「答えよ! 誰だ、爾らは!?」
将は麾下の兵に手で指示した。一騎が営に向かう。
すぐさま、彼は矢に中り墜ちた。
将らは驚いたようす。
子のひとりが、次の矢をつがえ弓を引いている。
「斬れ!!」
タイシと将は、ほとんど同時にさけんだ。
タイシらも、兵らも、それぞれ刀を抜き、弓を引き、槍をかまえた。
しかし、兵らは後から乱れ倒れる。将も馬から落とされもがく。
地に落ちた火炬に下から照らされる鉄槊を持った巨体。
「ジャラーブ、遅いぞ! なにをしていたのだ?」
テゴが刀を鞘に収めながら話す。
ジャラーブはゆっくりと馬を下り、将にとどめを刺す。
「……路に迷った」
皆、苦笑い。
ジャラーブは突然、趨り、タイシの前に俯伏した。鉄槊が大きな音を立てて転がる。
タイシも馬を下り、ジャラーブの手を執る。ジャラーブは涕涙していた。
タイシはジャラーブを起こし、鉄槊を拾い、わたす。また、矢を射た子を顧みる。彼も馬を下りていた。タイシは、やはり子の手を執り微笑した。
タイシが皆を見る。皆、タイシを見ていた。
タイシが言う。
「さあ、進もうか」
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