皇天順ならず(高汝蓮)第16話

「皆も知ってのとおり、正月三日、奚人クリブが僭号し、天復元年と称えた」
テムゲ太保が周りを見る。諸将が坐していた。
「遂に兵を率いて盧龍嶺に出て、景州を攻め破り、守将らを殺し、さらに常勝軍を雁門鎮で敗って、薊州を攻め陥れたという」
「おお!」
数人が愕いたように唸った。
マゴ都統が言う。
「食に闕けているのであろう」
皆、苦笑いした。
「さて、初め庶人淳(秦晋国王)……」
テムゲがタイシを伏し目がちに見た。咳払いをして話をつづける。
「……がディリを遼興軍節度使、張覚を副使とした。しかし郷兵はディリと全族二百口を殺し、家貲数十万を劫掠してしまう。覚は郷人をして安を招き乱を息【や】めさせた。その功で権【かり】に平州の事を知【つかさど】ることになる。庶人が死ぬと庶人の妻(徳妃)は太子少保時立愛を遣わして平州を知らせた。覚は容れたくない意があったらしい。時立愛も疾と称して出てこないで、ジュルチェンに降った。覚は管内の丁壮を籍して軍を充たし、万人・馬一千疋を得、豪傑を招き、潜【ひそ】かに一方の備えとしている。ジュルチェンは遂に平州を改めて南京とし、覚に同中書門下平章事判留守事を加えたという」
「張覚はジュルチェンに降ったというわけでないのだな?」
マゴが問う。
「今のところは、な」
テムゲは答えた。
或るものが語る。
「燕京は……」
やはりタイシを顧みた。
タイシは瞑目している。
「リンヤらが去った後、十二月五日、統軍都監ガウリウらが款をアクタに送りました(内通した)。アクタは燕京に至り、南門から入って将帥をして城に陳べ、おのれは城南に。左企丘・虞仲文・曹勇義・康公弼らは表を奉じて降りました。六日、大遼の百官はアクタの軍門を詣で叩頭して罪を請うたそうです。アクタは一切を釈したとのこと。七日、アクタが徳勝殿に上ったところ、群臣は賀を称えたとか」
「詳しいな? ウチ都統」
再びマゴが言った。
「アクタは西京の官吏に偽詔しているのです。“さきに師(ジュルチェン軍)が燕都に至った。すでに皆、撫定している。ただ蕭妃が官属数人とともに遁去した。すでに兵を発して追襲している。また彼路に至ったならば執らえて、以て来るべし”と。これといっしょに燕京のことを、西京の民が密かに知らせてくれたのです」
「ふん」
諸将は怒っているようだ。ウチ都統がつづける。
「また、正月二十六日、宜・錦・乾・顕・成・川・豪・懿などの州が相継いで、皆、降りました。ほかに上京の盧彦倫なるものが叛き、エリ=ヌの妻イシンを殺しています」
「確かクドゥ公主の女(むすめ)であったろう? まだ上京に?」
「順宗が廃されてから、久しく貶所に在って、親しく役事を執り、労するといえど難色なく、夫に事えるのに、礼敬に旧に加えるたと。子のグインは乾統の間に始めて仕えました。賊が至るに、諸子を速く避けさせ、害に遇ったということです」
ウチは、語をいちど切り、また話しはじめる。
「二月一日、興中府が降りました。来州帰徳軍節度使田コウ[景・頁]・権隰【しゅう】州刺史杜師回・権遷州刺史高永福・権潤州刺州張成は、皆、所管する戸を籍してジュルチェンに降ったそうです」
諸将は黙ってしまった。
タイシが天幕を出る。
マゴが言う。
「遂に主上は来なかったな」
「旦に至るまで飲んでいたというのです。我にとっては善かったというべきでしょう」
「ん?」
「いちど背いたのに、何の面目あって見えるのか、と告げる者がいますので」
マゴは頷く。
「……ところで、卿の麾下の兵が前より少ないようだな」
「……」
タイシは立ち止まった。
「秘しているのか」
「いえ……西北の部族を探らせています」
「おお、そうか? わかった。卿が報じるまで上奏しないでおく」
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