皇天順ならず(高汝蓮)第14話

車騎が至る。
幾人かが下りて地に屈む。彼らは雪の中に半ば埋まっていた尸【しかばね】を確かめ、馬上の男を見て頷く。その男も馬を下りて、尸に近づき跪いて伏した。そこに来たもの皆それに倣う。他の者が少し離れた所で、もう一つの尸をみつけた。やがて車から二つの柩を降ろし、それぞれ尸を抱え挙げ、柩に入れ、再び車に升させる。皆、馬に乗り、すぐに発した。
谷に囲まれた営。皆、白い“からむし(麻)”の衣と巾で幄【あく】(テント)に入った。
霊柩に臨み、巫者が祓除【ふつじょ】し、衆が香を上り、酒を奠し(そなえ)、再拝して下がる。外で「くろい、おひつじ」を刑し、衣・弓矢・鞍勒・図書などの物を燔【や】いた。
そこに珠帽を被り、銀鼠の貂裘を披した(着た)わか者を先として、緑花窄袍や黒緑色衣・鎧甲の数百騎があらわれる。
営の衆は皆、或いは弓に矢を番え、或いは槍を構えて迎えた。男が皆の前に出る。
わか者が馬から飛び降り趨る。男に近づき肩を叩き笑った。
「久しいな!」
わか者に男は再拝した。わか者はさらに言う。
「猟に出ていたので、会えなかった」
「いいのですか? ここに来て」
「かまわないさ」
わか者は幄に入った。近くに侍していた数人が鞠躬する。彼らも幄に入っていった。
わか者が柩に臨んで拝跪している。
「もう一人は誰だ?」
「徳妃の外甥シャンゴです」
「ふ〜ん」
わか者は幄を出た。
「卿らは食に困っていないようだな?」
「優れた猟人がいるので」
男は女児を顧みる。
「ほお〜」
わか者は女児に近づいて、その頭を撫でた。先ほどまで泣いていた女児は、ふきげんになっている。わか者は笑い、被っていた珠帽を女児に与えた。
「そうだ! 明日、猟をしよう。汝らも来い。迎えをよこす」
わか者は、そう言うと馬に乗り去った。鎧甲のものらが次ぐ。
槍を持った者の一人が男に聞く。
「リンヤ、梁王は何をしに来たのでしょうか?」
「ようすを見に来たのだろう」
「梁王は我らを恐れているのですかね? 禁衛までつれて」
「……」
まだ雪の残る山林を十数騎が駆ける。
梁王が手を挙げた。皆、馬を下りて引く。やがて止まる。梁王が矢を射た。
「それ!」
数人とともに梁王は趨り、獣を捕らえた。
梁王は大笑し、獣を右手で持ち、左手で弓を振る。
タブエンは苦笑し、手を振り応えた。
タイシは微笑し、タブエンらを引きつれ、梁王の居る所に向かう。エンシャンが前に、ジャラーブが後に在る。梁王の兵が近づこうとするのを遮っていた。
まだ日は高い。外で宴を開く。梁王は声を上げて大きくしゃべり酒を飲む。左に坐るタイシも笑顔で応える。 梁王は立ち、馬に乗り、鞠を撃ち始めた。
タイシに横から小声をかける者がいる。
「リンヤ、なぜ我らを避ける?」
「……」
「リンヤは初め燕王を、次に秦王を策立した。しかし我らは梁王こそ皇帝にふさわしいと思っている」
「……」
「いずれ天祚皇帝に退位を促すつもりだ。そのときまで、よく考えておいてくれ」
その者は何かを恐れるかのようにして去った。すぐにオリラがタイシに寄る。
「やはりテムゲ太保が何か言ってきましたね?」
「うむ」
「梁王を擁立したければ、我らを憚らず、かってにやればいいのに」
「……そうはいかない。天祚は皇子すら信じていないであろう。ましてや臣下など! 天祚の父、順宗は姦臣に弑されたのだ。また、他に趙王も許王もいる。さらに禅譲が成ったとして、後に天祚を復辟【ふくへき】(復位)させようとする者がいるはず。それらを先に抑えなければならない」
「それで、まず我らの所に来たのですね? しかしそれは、彼らが我らを組み易いと思ったのか、……いちばん強いと考えたのか!?」
タイシが顧みる。オリラの後にジャラーブが腕を組んで立っていた。
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